『最終意見陳述』


原告代理人

陳述の要約

1 事案概要

 本件は、原告の次男である勇士が、被告ニコンの熊谷工場において勤務していたところ、過労のため、うつ病を発症し、平成11年3月5日ころ、23歳の若さで自殺したという事案である。
23歳の若者が、なぜ自殺をしなければいけないところまで追い込まれたのか。

2 夜勤・クリーンルーム

 勇士は、二交替制勤務のシフトで、昼勤と夜勤の二つの勤務時間帯で働いていた。
夜勤という勤務が、体に非常に有害であるということは、様々な医学的研究から明らかになっている。
人体は元来、昼は活動期、夜は休息期として、体温、自律神経、ホルモン、中枢神経などがセットされている。
夜勤は、それに逆らって働くので、体のリズムが狂ってくる。
また、人間が本来寝ている夜に起きて、昼に寝ることから、睡眠の長さも、また、その質も大幅に悪化する。
そのために夜勤によって、疲れが取れなくなり、慢性疲労となる。

 クリーンルームという労働環境も、体に有害であることが医学的研究から明らかになっている。
クリーンルームという場所は、窓もなく、光も黄色一色の閉鎖空間である。
また、埃を出さないため、クリーン着という密閉型の服を着なければならない。
休憩室やトイレに行くのにも、エアーシャワーを毎回あびて外の埃を落とさなければならない。
このような環境が、窓もあり、普通の服を着て過ごせる環境とは違って、ストレスがたまることは明らかである。

3 出張・15日間連続勤務・引越し

 勇士が、このように大変な労働をしているにもかかわらず、被告らは、さらに過酷な労働に従事させた。
その一つは、出張である。勇士は3回出張したが、そのうち2回は海外出張であった。   また2回は15日間に及ぶ長期出張であった。
出張期間中、勇士は非常に長い時間はたらいており、朝早くから12時過ぎるまで働くこともしばしばだった。
 また、亡くなる直前の1月、15日間連続して、新型開発機の検査に従事させられた。
この時の労働時間は、1日平均13時間に及んでいる。
 亡くなる直前の1月には、ネクスターから突然の引越しを命じられている。

 勇士がうつ病を発症し、憎悪させたことは明らかである。

4 被告らの健康管理

 過酷な勤務であったにもかかわらず、健康管理はなされていなかった。
ネクスター自身は、健康管理といえるものを一切行っていなかった。
ニコンについて。ニコンのパンフレットには、熊谷製作所の診療所は、原則として社員のみ利用できるとはっきり書かれてある。
社員以外の人も利用できるのは、緊急時のみとされてあり、診療所は利用できないのと同じである。
 また、法律上要求されている健康診断も行われていない。
 きちんと健康管理がされなかったのは、
被告らが、勇士の労働形態の実質は派遣社員であるにもかかわらず、請負という形をとって、労働者派遣事業法を潜脱したことにより、
派遣社員としての最低レベルの保護すら与えられなかったことにも原因がある。

5 退職・無断欠勤

 被告らは、勇士の退職申出に対して、きちんと対応せず8日間も放置していた。
勇士が無断欠勤しても、2週間もの間、勇士の部屋を訪ねることすらしていなかった。被告らが、勇士を単なる労働力としてではなく、人間として取り扱っていたならば、このような対応をすることができたか。

6 最後に

 23歳の若者が、なぜ自殺をしなければいけないところまで追い込まれたのか。
被告らにおける過酷な業務にあることは明らかである。