平成16年11月12日

『最終意見陳述書』

岩手県一関市※※※※※※※※
上　段　　のり子

　４年４ヶ月の間、裁判官の方々には、原告の言い分をとても丁寧に聞いていただいたと感じております。大変ありがとうございました。

１　勇士の巣立ちと最期

　巣立ちを迎えた勇士を見送るのは、正直寂しい気持ちでした。そんな私を励ますように就職前夜に写真を撮りました。両手をこぶしにして握りしめポーズを取りました。それから１年４ヶ月後に熊谷の部屋で見た勇士の遺体は、やはり両手をこぶしにして握りしめていました。そのこぶしの指は、手の平の肉に食い込んでいました。ホワイトボードは大きなもので、計ったように真ん中に、なつかしい勇士の文字で、�無駄な時間を過ごした�と書かれていました。熊谷の１年４ヶ月で、尋常ではないことが勇士に起こったことを確信しました。

２　裁判の中で
（１）昼夜二交替勤務とクリーンルーム
　　昼夜二交替勤務は、長く続けても身体が慣れるものではないと裁判で知りショックを受けました。消化の良い食事を作ろうと努力したり、味に自信がなくなってからは、カレーやシチューを作ってタッパーに冷凍保存したり、八百屋さんに栄養のある野菜を教えてもらったと喜んでいた勇士を思い出します。これ以上、どんな努力が出来たでしょう。追い討ちをかけるように、勇士は明らかに他の方とは違う使われ方をされました。学生の頃の身体に戻りたいという必死の努力は、何も実りませんでした。昼夜二交替勤務は、成せばなる、やれば出来るは通用しない勤務だった、それがなんとしても悲しくてなりません。
　　またクリーンルームについても、社員・外部労働者への情報開示はほとんどないことが分かりました。害に関するニコンの話は、Ｍ証人の時には�空気中のちりをなくすことは人体に有害なことなんですか��気温が一定だと体に悪いことなんですか�というようなものでした。この部屋の中で懸念される害は、閉鎖された特殊な環境で働くことによって生じるものですから、ニコンの話は子供だましのようでありとうてい納得できませんでした。クリーンルームの中で二交替勤務をする時、勇士のような使われ方で、生きていられる人はいないと思いました。

（２）請負会社と配属先
　　ネクスターは結果的に�いかようにもお使い下さい�と勇士を差し出しただけでした。給与からの天引きは、毎月しっかり３割取りました。寮と言っても家賃は勇士が払いました。ただ取り尽くすだけ、仕事の相談には乗れない、安全管理はできない、安全管理に金銭も回していません。勇士を守るものは何もありませんでした。こういうものが請負会社として成り立っていることは堪えられない気持ちです。
　　配属先ニコンにも失望いたしました。ネクスターの社員であった勇士は、出張の時には対外的にはニコン社員になりました。ニコン社員としての名刺を渡されて仕事に行きました。ネクスターは誰もついて行きません。初めての海外で、しかもニコンのお得意様の会社の中で、失敗のない仕事を最終検査係として要求される、就職４ヶ月余りでの仕事でした。台湾のコンビニ弁当と、満足に睡眠のとれない労働条件で15日間も取り組みました。痩せて戻って来た勇士を思うと、�請負だからニコンに責任はない�とはどうにも納得がいきません。

３　さいごに
　今でもネクスターのような形で請負会社が現存し、蔓延しております。これらの会社には外国人労働者も多く入っており、劣悪な労働条件で働いていると聞いています。
　行政による文書・口頭での指導は、会社への立入検査がないということで、なかなか功を奏しきれません。違法が横行する姿を見続けることは、生きる元気が削がれます。
　この裁判に勝って、請負・派遣の制度を根本から見直し論じていただく為の、大きな大きな追い風になりたいです。
　それが叶いましたら、勇士はその為に召されたのだと自分に言い聞かせ、霊前に�無駄な時間ではなかったよ�と報告してあげたいと思います。

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