今後の裁判日程





【控訴審 第13回口頭弁論】
平成20年4月15日(火) 午後2時、808法廷
 

裁判長の証拠調べが始まりました。原告からは第17準備書面、第18準備書面、書証甲191、192を提出しました。ニコンからは第7準備書面、第8準備書面、第9準備書面、書証乙131、132が提出されました。アテストからは第10準備書面が提出されました。
意見や説明をその都度聞きながらの進行なので、予め書面を見ていた私にもさらに分かり易く進みます。時折、傍聴席からも内容を聞きながら吐息がもれたり、かすかな笑いがもれるので、理解できているんだと感じました。
主張の概要説明に関しては、最後に時間を設定することと約束し、現段階では他に主張がないことを確認されました。
その上で、原告、被告がそれぞれこれまでに証人申請していた人物について、裁判長から最終的に撤回して良いかどうかの確認がありました。

原告も被告ニコンも全ての証人申請を撤回しましたが、アテストは「勇士の父」だけは撤回を拒否しました。
裁判長からアテストに対し、維持したい事柄について確認がありました。
この後、裁判長と裁判官は別室で合議に入り、しばらく壇上からいなくなりました。

合議の結果、勇士の父の証人尋問を採用することに決定しました。
裁判長の「161条後段の部分を聞きたいということなのですか」という問いに対してアテストからは、「因果関係(勇士の死と業務外の事情)のこと、及び時効の問題の両方」という返事がありました。
裁判長はこの後に、証人の採用はこれで最終であることを告げました。

その後、互いの主張の口頭説明がありました。
今回は、
うつ病罹患の有無に関して、直接証拠(原告側精神科医意見・原告陳述)を除く、間接証拠を挙げて主張がポイントです。
それぞれの主張の概要は次のようなものでした。

〜提出準備書面、法廷での口頭説明〜
※今回、当初の準備書面、それに対する互いの反論準備書面、再反論準備書面が提出されています。さらに口頭説明も入りました。
※説明上、前半(当初の準備書面)と後半(その後の反論、口頭説明等)として記載します。

【ニコンの主張】(前半)
1.

勇士がうつ病に罹患していなかったことを示す間接事実
(1)勇士の勤怠
・うつ病の症状としては、行動が不活発、緩慢、口数少ない、おっくう、仕事能率の低下・・とされる。
実際ニコンにおいて、うつ病に罹患し休職しているものの勤怠は極めて不規則になり、欠勤日数が多く、ついにうつ病による休職をするのが一般的である。勇士の勤怠状況は極めて良好であった。

・ 平成11年1月の「事欠」はニコンの要請による休みであり、勇士の欠勤ではない。各上司・同僚の証言でも勤務態度は極めて良好と述べている。いずれも勇士の勤怠状況はうつ病患者のそれと大きく異なっている。

・ 勇士の作業能力が落ちることもなく、職場内では優秀であると評価されていた。技術部門にも積極的に質問紙、前向きに取り組んでいたと直属の上司も証言している。

(2)勇士が食欲不振に陥っていなかった
・ 台湾出張では昼食は出張先が用意した食券使用、バイキング方式の食事を摂っており、食費を出費する必要はなかった。勇士のメモによる金額によれば、他の場合も十分食事ができる。同僚も一緒に食べにでかけていたと陳述している。原告に対して訴えたような健康状態でなかったことは明らか。
・ 宮城出張では、勇士が食事を摂っていたことが認められる。勇士の食事メモからも明らか。同行した同僚も朝食を食べていたことを陳述している。

(3)健康悪化を裏付ける医証が一切存在しない
・体重の減少は業務上か、定かではない。平成10年春に実施された検診では異常は発見されていない。勤務はそれで継続した。
(4)労働条件がうつ病罹患になるほど、過重ではなかった。
(5)勇士及び原告による、健康悪化にかかわる申出が一切なかった。このことは、その時点で健康悪化が勇士に発現していなかった間接事実である。

(6)原告らの勇士自殺直後の言動
・うつ病が原因という話をしなかった
・ 被告の責任を問題化するつもりはない旨述べた
・ 上司にあった兄弟は自殺の原因の心当たりがないといった
・ 就労状況を聞きたいといい、状況を把握していなかった
・ 原告と上司の電話でも、異常は感じなかったと話した
・ 原告は勇士の自殺を事件性があるのではと言った
・ 原告は警察に司法解剖を依頼した

2.
勇士がうつ病に罹患していなかった間接事実は十分に存在する。

【アテストの主張】(前半)
1.

うつ病罹患の有無に関する生活面の事情
(1)原告や原告側医師の供述等を除いた、生活面の事情は認められない
(2)うつ病の医証が存在しない
(3)原判決の根拠としたものに医証が存在しない。申告を受けた第三者もない
(4)体重減の原告供述以外の証拠がない
(5)勇士の受診事実がない
(6)家族が受診を勧めた事実がない
(7)勇士の異常言動を認識した第三者がいない
(8)勇士の社会活動能力の低下がない

2.
うつ病罹患の有無に関する労働面の事情
(1)労働面の事情がない
(2)業務において、作業能率ないし作業能力の低下の事実がない
(3)勇士から健康状態を理由とする業務に関する変更を求められていない
(4)退職理由は健康状態を理由にしていない

【原告の主張】(前半)
※前回、裁判長から話があった主位的請求の件から。
1.

請求の趣旨の主位的請求と副位的請求
・原告側は、債務不履行責任(安全配慮義務違反)を主位的請求とし、不法行為責任(注意義務違反)を副位的請求とする。

2.

うつ病に罹患していた根拠
(1)自殺とうつ病等精神疾患との関連を示す知見
・甲147から。自殺者が生前に気分障害にかかっている例が多く、精神障害に該当しない人は約1割程度。精神治療を受けていた人は2割程度。「覚悟の自殺」「理性的な自殺」が議論されるが、自殺の背後には精神障害が高率に潜んでいる。
・甲59から。ほとんどの場合自殺者は精神的に病的な状態。自殺者における精神障害の占める比率が100%、99%、97%等の研究者の資料が紹介されている。
・厚労省も自殺の背景に、うつ病などの心の病が圧倒的と指摘している。

(2)深夜交替制勤務における精神疾患
・甲70(甲32)から。深夜・交替制勤務労働者に精神神経疾患が多数発生
・甲108から。睡眠障害や睡眠不足がうつ病の直接リスクとなりうる可能性高い。
・乙13から。夜間勤務が生体リズムの狂いをもたらすものであることを強調している。

(3)クリーンルーム内作業における精神疾患
・甲70から。精神神経疾患による配置転換事例が多かったのは、クリーンルーム内作業が主。
・甲113から。クリーンルーム作業者は、・・特異的な精神・心理状態を余儀なくされ易い。
・原判決から。クリーンルーム内作業は、・・より精神的負担を伴う作業といえる。

3.

クリーンルーム内作業における精神疾患
・甲70から。精神神経疾患による配置転換事例が多かったのは、クリーンルーム内作業が主。
・甲113から。クリーンルーム作業者は、・・特異的な精神・心理状態を余儀なくされ易い。
・原判決から。クリーンルーム内作業は、・・より精神的負担を伴う作業といえる。

4.

長時間労働(長時間にわたる時間外労働)による精神疾患
・甲192から。長時間残業による睡眠不足が精神疾患発症に関連があることは疑う余地も無く、特に100時間を超えるとそれ以下の長時間残業よりも精神疾患発症が早まる。
・原判決も認めている。
・厚労省の実務要領から。そって計算すると勇士の労働時間は精神疾患発症の原因となりうる。

5.

退職強要・解雇の不安と精神疾患
・甲86から。退職強要・解雇が、精神疾患罹患につながる重大な心理的負荷。
・原判決も、認めている。
・ニコンの縮小方針(リストラ)により解雇の不安を感じていたことは、うつ病罹患を推定する根拠の一つ。

6.

引っ越しと精神疾患
・甲128から。引っ越しによる疲れや環境の変化によるストレスがうつ病の原因となる。
・原判決も認めている。

7.

S(アテストの営業所長)の目撃証言
・甲73から。「平成11年の1月と2月の両方」、「顔色と見た感じ」から「だいぶ疲れているように見えた」と具体的証言がある。
・原判決もS証言を組み込んで健康悪化を認定している。

8.

欠勤・退職申出と精神疾患
・甲182から。職場を休みがちになることが自殺直前のサインである。
・甲191から。あまり欠勤しなかった人が急に欠勤しだします。・・すでに何ヵ月前からうつ病の症状に苦しんでいたが、・・我慢ができず無断欠勤・・。

9.

貸金行為と精神疾患
・甲182から。「大切にしていたものを整理したり、誰かにあげてしまう」行為を、自殺直前のサインとして挙げている。貸金行為もうつ病罹患を推定する根拠の一つ。

〜〜〜〜主張。後半部分〜〜〜〜〜〜

【ニコンの主張】(後半)
1.

認否・反論
(1)原告がうつ病罹患の間接事実と主張している事項は、勇士の労働条件に関して過重性があったと主張している事柄に関するものを主としている。この一事を見ても、罹患の主張が空虚なものである。
(2)自殺の原因をうつ病に罹患していたと答え、うつ病に罹患していた間接事実を自殺したことと答える、問いをもって問いに答えている。
(3)うつ病を発症するほどの過重な労働条件下になかった。
(4)アテストS(熊谷営業所所長)の陳述及び証言からすると、うつ病に罹患していたこと自体は認められない。
  職場同僚または上司の証言・陳述とも軌を一にするものである。
  外形的には、病的異変が認められなかった。精神疾患に罹患していなかったことが推認できる。

(5)欠勤がうつ病罹患の間接事実とまでいうことはできない。平成11年2月下旬に4日間欠勤したことはあるが、2日間は体調不良、1日間は国家試験のためである。うつ病罹患によるものかは到底断定できない。

(6)貸金行為。勇士は金員を「あげてしまった(贈与)」のではなく、貸したに過ぎない。依頼があったために貸した。うつ病罹患を推定する根拠たり得ない。

2.
結論
  勇士がうつ病に罹患していたことを示す間接事実は皆無に等しい。
  うつ病に罹患していなかったことを推認させる間接事実が存在している、うつ病に罹患していた事実を認定・推認することは不可能。
【ニコンの主張】(後半→再反論から)
1.

原告第18準備書面に反論
(1)・原告末尾添付表について。「表」自体がどのような資料に基づき作成されたものであるのか全く不明、真実性につき何の立証もされていない。主張の裏づけとして失当。

・無断欠勤ではなく「国家試験のため休んでいる」との連絡をしており、無断欠勤は2日間にしか過ぎない。これをもって自殺する可能性を予見は不可能。

・原告が、2月28日に勇士からの電話を受けており、「異常は感じられなかった」と述べていることからも明らか。

(2)・宮城出張について。出張に同行した元同僚も乙78で朝食を食べていたことを述べている。原告の陳述のごとき状態にはなかった。原告の陳述がそれ(不備)を認めていることにほかならない。本訴の基礎に位置づけている(原告側)医師意見書(甲60)が全く意味のないものとなる。
原告の主張は破綻している。

・同行した同僚(元派遣社員、乙78)は上段さんが「お金に困っている」、10万円以上のお金を家族の誰かに仕送りしているような話しでした、と述べている。健康状態の悪化ではなく、経済状態の悪化と考えるのが自然。

・この同僚は、お母さんは勉強時間もトレーニングも料理も好きなこと何一つできないと言っていたが、上段さんから聞いたこととは違っていると述べている。

(3)・健康診断について。繰り返し主張するが、健診は実施された。診断結果が 現存しないに過ぎない。
・勇士の悪化を陳述するのは原告のみ。原告はホームページを立ち上げ、メディアにも度々露出して本件について主張している。そのような積極的な対応をする人物が被告らに抗議することもなく、息子の健康が悪化していくのを傍観することは到底考えられない。
原告自身、健康悪化の事実を把握していなかったことを示すものである。

(4)ニコンが問題にしているのは、うつ病発症前に経験した健康悪化であり、うつ病発症後の体調不良ではない。

(口頭弁論 牛嶋勉代理人)

【アテストの主張】(後半)
 

反論準備書面の提出は特になし。口頭説明。
・(アテストの主張は)うつかどうかを書面で具体的に述べてある。特にうつ病の医証がない。味覚や嗅覚の鈍磨などを言っているが、うつと分からなくても耳鼻科に通うこともあると思う。それもなく医証が存在しない。

・うつならば、他人に認識されることがあると思われるが、それもない。
・原告から、判例の表が出ているが、因果がはっきりするものではない。

(口頭弁論 粕谷誠代理人)

【原告の主張】(後半)
1.

ニコンに反論
(1)勤怠状況
・乙121引用部分。事実に反する。乙49と違っている。
・2月22日、23日以降も2月26日、27日、3月3日と無断欠勤しており、3月5日以前の勤怠は明確。極めて重大なうつ病・自殺サインである。

・うつ病にも表現型は様々あって、ニコン主張のような場合もあれば、そうでない場合もある。
・自殺労災訴訟事案のほとんどは、ニコンが主張するようなケースは少数である。
※本書面末尾添付表
  添付表のとおり、本件を除く40事案のうち、「勤怠が極めて不規則になり欠勤が多くなって」いるケースは、多くみても約10事案(25%)であり、残りの約30事案(75%)は、「勤怠が極めて不規則になり欠勤が多くなって」いるケースではない。

・作業能率の低下は、うつ病で見られるがそれがないからと言って、うつ病を否定する根拠にはならない。外から見て作業能率の低下がないことも多々あるということである。
   平成13年2月19日頃には、「理科の簡単なものがわからなくなっている」と話しており、作業能率がある程度低下していた可能性がある。

(2)食欲不振
・食欲不振に陥っていなかった例として台湾出張と宮城県出張を挙げているが、勇士のうつ病発症時期以前のことがらである。
・宮城県出張の表は、勇士が昼食・夕食をまともに取っていなかったかを証明するものである。

(3)健康悪化と医証
・原判決も認定したように、被告らが法定健康診断を実施しておらず、結果、うつ病に罹患した後の健康診断結果が存在していない。実施していれば体重減少など確認され、心身の変調が診断された可能性が高い。

・平成10年春の健康診断で異常が発見されないと主張しているが、この健康診断は医師の診察所見もなく尿検査のみ。これをもって異常なしとは、到底言えない。

・うつ病等精神疾患の治療記録がないからと言って、うつ病に罹患していなかったということにはならない。
本書面末尾添付表のとおり、自殺労災訴訟事案のほとんどは、自殺前のうつ病罹患が認定されているが、40事例で見ても、精神科を受診したケースは10事案(25%)にすぎない。

(4)健康悪化にかかわる申し出
・申出を一切おこなっていないことを、うつ病罹患否定の根拠にしているが、平成11年2月22日、23日に欠勤するにあたって、ニコンに「体調不良」を伝えている。ニコン上司の陳述がある。

・アテストの上司Sが健康悪化について陳述している。
・ 非正規雇用の身分から解雇につながる危険が高いため、自覚症状があっても、平成11年2月22日頃までは、健康悪化を申出することを躊躇したと推察できる。
・成人している労働者の親が、健康悪化を会社に申し出ることは通常行われないことであり、原告が申出を行わなかったことは不自然ではない。電通事件最高裁判決にも「(両親が)勤務状況を改善する措置を採り得る立場にあったとは、容易にいうことはできない」と判示している。

2.

アテストに反論
(1)ニコンへの反論を援用する。
(2)勇士の髪型・服装等のことがら(※乱れがなかったこと)は、軽症うつ病エピソードの診断には関係ない事象である。
(3)退職理由について、勇士が表向きは、「資格取得」と言ったかもしれないが、当たり障りのないことを述べることは、通常よく見られること。その発言があったとしても、うつ病罹患を否定するものではない。

(4)退職申出は抑うつ症状の「意欲・気力減退」とも関連は強いが、「視野狭窄・強度の思考抑制」となり、起こした行動と考えるのが相当。本書面末尾添付表、自殺労災訴訟事案の40事例で、退職申出をした、退職の意思を周囲にもらしていた事例が、18例(45%)存在する。

被告らは医証があるかないかを主張している。
春の検診はやったけれど、表は残っていないというのは不可思議であり、残っていればそれが医証になったのである。
検診・問診で勇士の健康悪化は分かった可能性があった。
法定健康診断をしなかった企業が医証の有無について、原告の責任を問うことはまったくおかしなこと。
大企業の態度としてあるまじきことであり、非常に残念なことである。

(口頭弁論 川人博代理人)

口頭弁論は以上で終了しました。
この後、
次回裁判期日が話し合われました。
当初は、勇士の父の証人尋問に関して、進行協議期日(非公開)を設けて相談するという話に落ち着きました。
しかし、具体的な日時の折り合いがつかず、「追って連絡」ということで閉廷となりました。

その後、
4月15日裁判以降に、裁判所と、原告代理人、被告代理人が電話での協議の結果、7月1日(火)13:30〜、東京高裁808法廷での勇士の父、証人尋問が決定しました。

以上です。